2023年1月アーカイブ

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テキスト: 嶋田真己

モーツァルトの3本の傑作オペラの台本を書いたイタリアの詩人、ロレンツォ・ダ・ポンテの"逃げる"人生を鋭く描く、音楽劇『逃げろ!』~モーツァルトの台本作者 ロレンツォ・ダ・ポンテ~が、2023年2月10日(金)~3月1日(水)まで、福岡、大阪、東京で上演される。上演台本・演出の鈴木勝秀が、史実をもとにロックアレンジされた疾走感あふれる音楽にのせて、"ROCKバカ芝居"の集大成に挑む本作で、自称天才のダ・ポンテを演じるのは、橋本良亮(A.B.C-Z)。そして、モーツァルトを佐藤流司が務める。本番まで1カ月を切った1月某日、熱のこもった稽古を続ける稽古場を見学。その模様をレポートする。

 

稽古場に入ると目に飛び込んでくるのは、生バンドのセットだ。今回のバンド編成について、音楽を担当する大嶋吾郎は「今回は管楽器、ギター、ドラムの変則トリオ。要するにベースレス、ピアノレスです。でも、それが素晴らしいバンドサウンドになっています。ありきたりなものではありません」と説明。稽古中も、キャストたちの稽古に合わせて、アレンジを変えてブラッシュアップしていく姿が見られた。

 

この日は、鈴木が「やることの方向性を確認していこう」と稽古が始められ、物語の初めからシーンごとに細かな動きやセリフの確認を行った。ダ・ポンテを取り巻くカサノヴァ(細見大輔)、ココ(渡邉美穂)、バレッラ(弓木大和)は、物語の進行役も務めるため、冒頭からセリフの掛け合いが続く。コミカルな動きや合いの手を入れることで緩急をつけており、グッと引き込まれた。さらにこの日の稽古では、鈴木は「そこはもうちょっと大きく動いてみようか」「ここ(の合いの手)は1回にしよう」など、一つひとつ丁寧に演出をつけていき、最適を探っていた。

 

今回の演出について大切にしていることを鈴木に尋ねると、「いつものことですが、演劇を音楽として作ること。今作に限って言えば、あらゆる意味で"さらけ出す"ということです。そして、(この作品の時代的背景にあるフランス革命の理念であり、モーツァルトの理想でもある)『自由』『平等』『友愛』(笑)」と教えてくれた。

 

これまでのインタビュー等で、橋本と佐藤は、鈴木の演出について「あまり細かいことを言わない」「自由に演じさせてくれる」と口を揃えて話していたが、それはまさに、鈴木が音楽のように作品を捉え、どう盛り上げるのか、どう観客を飽きさせずに見せるかに注力しているからなのだろう。この合いの手や動きもまさにその一つ。役作りは信頼する役者たちに任せているのだ。

 

また、橋本は「スズカツさんとは3回目ですが、これまでの2回は朗読劇だったので、今回はじっくりと稽古期間があります。でも、稽古中、スズカツさんは僕に何も言わないから、これで合っているのかなという不安はあります。ダメ出ししてくれとも思うのですが、でもだからこそ、自分の反省点を自分自身で考えたり、次はこうしてやろうとアイディアを持って現場に臨むことができている。スズカツさんは、それが狙いなのかもしれません(笑)」とこれまでの稽古を振り返った。

 

さて、その橋本だが、今回演じるのは、詩人で、女好き、ギャンブル好きのダ・ポンテ。ヴェネツィアを追われ、ウィーンに逃げ出してきて、アタマの回転の速さと口のうまさでコネを築き上げていく。こうして肩書きを書くと、いかにもダメそうな男だが、実際にそれを橋本が演じると、非常にスマートな男に見える。橋本のもつ清潔感と爽やかさのなせる技だろう。

 

一方、稀代の天才で、神聖ローマ帝国皇帝ヨーゼフ2世からの信頼も篤いモーツァルト役を演じる佐藤は、天才らしい飄々とした空気感を持ちながらも、人に好かれる愛らしいキャラクターを作り上げていた。この日は、サリエリ役の篠井英介とのやりとりを見学したが、"真面目で堅物"なサリエリとの掛け合いが絶妙で、稽古場でも笑いが起こっていた。

 

さらに、作品の見どころの一つでもある、モーツァルトのオペラをロックテイストにアレンジした楽曲の数々にも触れておきたい。クラシックとロックは一見、真逆のものに思うが、大嶋は「クラシック音楽と、いわゆるロックと呼ばれる音楽とは、リズムやビート感、サウンドの違いがありますが、クラシックにも『ロックを感じる』ことがあります。『ありきたりなものではない』ことはとてもロックだと思います」と話す。そして、「(スズカツさんの)台本は必要な曲の質感や温度感が必ず感じられるので、そのまま作曲し、デモを作った」という。モーツァルトというと身構えてしまう人もいるかもしれないが、きっと「どこかで聴いたことある」「なんとなく知っている」という曲が多いと思う。そうして、それらがポップにロックにアレンジされているため、肩肘を張らずに楽しめるだろう。

 

鈴木も本作における音楽の重要性について言及しており、「稽古の初日から参加してくれている、ミュージシャンが作品を引っ張ってくれています。それに応えるように、キャストもスピード上げて取り組んでいるので、稽古場がまったく停滞せずに、毎日進んでいる感じです。しかもキャリアに関係なく、若手とベテランが同じ土俵でしっかりぶつかり合っているので、とてもいい状態だと思います」と明かしてくれた。

 

橋本と佐藤のソロ楽曲も楽しみだが、2人のハーモニーが聞けるのは嬉しい。美しい歌声でポップに歌い上げる橋本は「ハイトーンが素敵」と大嶋。また、グルーヴ感たっぷりにロック色強く歌う佐藤は「声の成分がすごく良い」と評す。鈴木も「2人のコンビネーションは、予想以上に素晴らしいです。この段階でこのレベルですから、今後の稽古でさらに意思の疎通が高まり、最後に到達するダ・ポンテとモーツァルトの関係のあり方が、はっしーと流司の関係性とリンクして見えてくると、個人的には面白いと思います」と期待を寄せる。

開幕まであと少し。はたしてどんな世界をステージ上に作り上げるのか。楽しみにしたい。

 

最後に、ダ・ポンテ役の橋本良亮、モーツァルト役の佐藤流司、ココ役の渡邉美穂から、開幕に向けたメッセージが到着した。

 

ダ・ポンテ役:橋本良亮

朗読劇でスズカツさんとご一緒した時に、「次は音楽を入れた芝居をやらせてほしい」とご本人にお願いしていました。なので、今回、このような形で夢が叶って本当に嬉しいです。モーツァルトの楽曲がロックバージョンにアレンジされているので、お客さまも絶対に盛り上がると思います。歌っていても気持ちがいいんです。それに、流司くんの声も最高です。僕は、自分で言うのもなんですが、どちらかと言うときれいな声で歌っていますが、流司くんはきれいな声も出せれば、ドスが効いた声も出せる。それが"天才"モーツァルトに合っていると思いました。約1カ月の公演になりますが、1公演1公演を大事にし、お客さまが幸せな気持ちで帰っていただけるように、芝居も歌もお届けしたいと思います。どうぞ、気を張らずにご覧いただけたらと思います。

 

モーツァルト役:佐藤流司

今回は、音楽劇で、しかもロックミュージックですので、自分なりのロックなモーツァルトを演じていこうと思っています。たくさん勉強させていただける豪華なキャストの皆さんに囲まれて稽古させてもらっています。そうした豪華キャストの皆さんも見どころの一つですし、クラシックやオペラ、交響曲をロックアレンジした楽曲もかっこいい。笑いも熱いシーンもあります。舞台セットが少ないために、役者の力量がしっかりと見える舞台にもなっているので、そこも見どころです。はっしーくんとは、良いディスカッションができていますし、お互いに毎日、新しい気持ちで稽古に臨めています。きっと良いものをお届けできると思います。皆さまのご来場をお待ちしております。

 

ココ役:渡邉美穂

私が演じるココは、訳ありな、自由奔放なイタリア人女性です。その言葉通り、かなり自由に演じさせていただいています。強いところもありながらも、かわいらしい部分もある、かっこいい女性になっていると思います。音楽も素晴らしく、キャストの皆さまの表現力も抜群で、思わず引き込まれてしまう音楽劇になっていると思うので、ぜひ楽しんでいただけたらと思います。

 

 

<公演情報>

音楽劇『逃げろ!』~モーツァルトの台本作者 ロレンツォ・ダ・ポンテ~

 

☆福岡公演=2/10(金)~2/12(日)キャナルシティ劇場

☆大阪公演=2/17(金)~2/19(日)梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ

☆東京公演=2/21()3/1() 新国立劇場 中劇場

 

脚本・演出:鈴木勝秀

音楽:大嶋吾郎

 

出演:   橋本良亮(A.B.C-Z) / 佐藤流司

渡邉美穂 弓木大和 内河啓介 細見大輔

篠井英介 / 村井國夫

 

ミュージシャン:大嶋吾郎(Vo,G,Syn) YOKAN (Reeds,Brass) GRACE (Dr,Per,Vo)

 

公式サイト:https://nigero-stage.com/

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1月7日より大阪で『「進撃の巨人」-the Musical-』が幕を開ける。

 

2009~2021年に『別冊少年マガジン』(講談社)で連載された諫山創による漫画『進撃の巨人』。コミックス全34巻の発行部数は世界累計11千万部を越え、日本のみならず海外でもセンセーションを起こし、TVアニメ化をはじめ様々なメディアミックスが行われた。

 

連載終了後の現在も絶大な人気を誇るこのダークファンタジー作品をミュージカル化した本作。原作の世界観はどこまで再現するのか、巨人の出現はどのように描くのか...など、多くの関心を呼び、謎のベールに包まれた舞台がいよいよ、白日の下にさらされる。そこで初日前日に行われたゲネプロの模様をレポートする。

 

会場に入ると舞台にはタイトルロゴが描かれた幕が下りており、その向こうに何があるのか客席からはまだ見えない。木々のざわめき、小鳥のさえずり、そして時折、地鳴りのような大きな足音が聞こえてくる。早くも壁の中の世界へと迷い込んだようだ。

 

時は来た。徐々に会場の明かりが落とされ、闇に包まれた。ワイヤーアクションも飛び出すオープニングを経て、物語はウォール・マリアに護られたシガンシナ区から始まる。まだあどけなさを残すエレン・イェーガーとミカサ・アッカーマン、アルミン・アルレルトたちが登場。エレン役の岡宮来夢、ミカサ役の高月彩良、アルミン役の小西詠斗がみずみずしい存在感で惹きつける。エレンを演じた岡宮は巨人に憎悪を募らせ「駆逐してやる」と誓った瞬間、目に獰猛な光を宿し、幼さを脱ぎ捨てる。高月は冷静なミカサを、佇まいで表す。ただそこにいる、という難しい場面も力強く描き切った。小西はあらゆる感情を引っ張り出して、頭脳明晰ゆえに恐怖心も人一倍強いアルミンに姿を重ねる。

 

そんな彼らを筆頭に、原作に忠実なキャラクターが次々と登場する。ビジュアル、衣装、話し方まで、まるで原作から抜け出たようだ。エレンやミカサを幼いころから知るハンネス役の村田充は、ちょっとお茶目な一面も持つ彼を好演。第104期訓練兵団の鬼軍曹、キース・シャーディスを演じる林野健志は195センチという長身を生かし、威圧感をビシビシと放つ。松田凌はリヴァイの冷酷さを表情に影を落として見せるも、優しさを併せ持つ面を声色や仕草で表した。訓練生であるジャン・キルシュタイン役の福澤侑、マルコ・ボット役の泰江和明、コニー・スプリンガー役の中西智也、サシャ・ブラウス役の星波も、怖いもの知らずの若者たちを、若さ特有の高揚感を湛えて熱演した。

 

印象的な場面も幾度となく訪れる。立道梨緒奈演じるハンジ・ゾエから巨人について学ぶシーンでは、机を前にして一列になって椅子に座る訓練生は宗教画のように美しい。訓練生たちの特長を一人一人、紹介する場面ではトランポリンを使ったウオールアクションもあり、サーカスを見ているような面白さもあった。寮内でジャンを中心にダンスするシーンは音楽のライブさながらで、ついつい体がリズムを取る。

 

臨場感を醸成しているのは、Blade Attackersの存在も大きい。彼らは恐怖や喜怒哀楽をアクロバットや様々なダンス、そして力強い歌声で表現し、訴求する。巨人に襲われ、逃げ惑う人々も身体表現で魅せ、ステージ上に大小の渦を作り、混乱を起こした。

 

キャスト達の歌声も注目だ。岡宮は時に力強く、時に優しく、エレンの気持ちを歌に乗せる。小西との掛け合いでは、低音の岡宮と高音の小西のハーモニーが実に心地よく、息もぴったり。幼馴染のエレンとアルミンという関係性を歌声でも丁寧に描いた。高月も凛とした強さが印象的なミカサの心のうちを歌に込める。エレンという光を求めるミカサ、その気持ちが痛いほど伝わってくる。調査兵団第13代団長のエルヴィン・スミスを演じる大野拓朗も圧倒的な存在感を見せた。会場を包み込むような朗々とした歌声に、エルヴィンのカリスマ性が全身からにじみ出ているようだ。

 

100年の沈黙を破り、突如現れた超大型巨人と、人をむさぼり食う巨人たち。それは、最新の映像技術とアナログの技法を用いて魅せた。映像と舞台上のキャストの動きをリンクさせ、巨人の非道ぶりを描く一方で、人力でも超大型巨人の顔や手を動かし、ダイナミズムを発揮する。客席まで巨人の手が届きそうな瞬間もあり、前方の座席では思わず体がのけぞってしまうかもしれない。様々な技法を駆使して表される巨人は、舞台人の叡智の結晶でもあり、息を飲む迫力に圧倒されながらも、そのアイデアや見せ方に感動を覚えた。

 

原作から支持されている各キャラクターの名台詞がどのように発せられるか、どの場面を取り込んでいるのか、目が足りない!と思うほど隅から隅まで見どころばかり。あっという間にエンディングを迎え、ハッと我に返る。エンディングのキャスト全員によるパフォーマンスも躍動感があり、時間を忘れるほどの没入感を満喫した。

 

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本作は19()まで大阪・オリックス劇場で公演後、114()から24()まで東京・日本青年館ホールで上演される。

(取材・文:岩本和子)

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