鞘師里保さんが主演する<shared TRUMPシリーズ>音楽朗読劇『黑世界 ~リリーの永遠記憶探訪記、或いは、終わりなき繭期にまつわる寥々たる考察について~』が9月20日(日)から東京・大阪にて上演&配信されます。
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本作は、劇作家・末満健一さんがライフワークに掲げ、2009年から展開する人気演劇公演「TRUMPシリーズ」の新しい試みとなる「shared TRUMPシリーズ」の第一弾。
ひとつの世界観を複数の作家が共有して創作する"シェアードワールド"の手法を用いた短編アンソロジー形式での公演となり、今回は
<雨下の章>中屋敷法仁(劇作・演出家、劇団柿喰う客 代表)、降田天(小説家・推理作家)、宮沢龍生(小説家)/末満健一
<日和の章>岩井勇気(お笑いコンビ・ハライチ)、葛木英(脚本家・演出家・俳優)、来楽零(小説家)/末満健一
という面々が脚本を手掛けます。
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描かれるのは、TRUMPシリーズ2作目『LILIUM -リリウム 少女純潔歌劇-』('14)の主人公・リリーが不老不死のあてなき旅の中で出会う<雨下の章>と<日和の章>のふたつの物語。二作同時上演です。
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本作で、『LILIUM』に続き出演する鞘師さんと、脚本・演出を手掛ける末満さんにお話をうかがいました。
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――おふたりは舞台『ステーシーズ 少女再殺歌劇』('12)、『LILIUM -リリウム 少女純潔歌劇-』('14)ぶりのタッグとなりますが、会われたのは久しぶりですか?
末満 この作品のビジュアル撮影が5年ぶりの再会でしたね。
鞘師 そうですね! 最後にお会いしたのがNAPPOS UNITED『TRUMP』('15)を観劇したときだったので。
――今作『黑世界』は、TRUMPシリーズ最新作として本来やるはずだったミュージカル『キルバーン』がコロナの影響で上演が難しくなり、生まれた作品だそうですね。
末満 はい。舞台上のソーシャルディスタンスをはじめとするいろんな条件を考えると、朗読劇は一つの手段だとは思ったのですが、僕、もともと朗読劇に対して食わず嫌いなところがあったんですよ。お手軽感のようなものが出ちゃったらいやだなと思って。なのでこの機会に、自分がやる朗読劇というものを探ってみようと思いました。
――リリーを主人公にした"音楽"朗読劇にしたのはなぜですか?
末満 『キルバーン』がミュージカルの予定だったので、歌ものではありたいなと思って。その中でいろいろと考えたときに、シックで落ち着いた世界観のイメージが自分の中に浮かび、リリーのロードムービー的なお話が合うんじゃないかと思いました。TRUMPシリーズではいろいろな時代を描いていますが、『LILIUM』のその後の時間軸は描いたことなかったですし。そういう、いろんな状況に導かれるようにして行き当った作品ですね。
――鞘師さんは'15年にモーニング娘。を卒業されて、海外留学も経験され、久しぶりの舞台となりすますが、どうして出演を決めたのですか?
鞘師 "決めた理由"というより"迷うことなく"という感じです。もちろんブランクがあるので、尽くさなきゃいけないことがたくさんあると思いますが、やりたいと思いました。
――それは『LILIUM』の経験もあってのことですか?
鞘師 そうです。『LILIUM』という作品は、モーニング娘。として活動をさせていただく中でやらせていただいたもの(作品にはモーニング娘。'14選抜メンバー、スマイレージ、ハロプロ研修生が出演した)ではあるのですが、「新しい一面を見せる」みたいに単純に語れるような出来事ではなかったというか、自分の中ではすごく大きな出来事だったんです。TRUMPシリーズのファンの方に観ていただけましたし、歌や表現に対する考え方も変わるきっかけになった作品だったので。自分にとってすごく大きな経験になっています。
――そんな場所に鞘師さんが6年ぶりに戻ってこられる『黑世界』ですが、まず、<雨下の章><日和の章>というタイトルはどういうことでつけられたのですか?
末満 これ、実はもともと、<100年後編><200年後編>という予定だったです。『LILIUM』の100年後の話、200年後の話、という意味で。それで作家さん達から届いた脚本を読んだら、<100年後編>の話はどれも雨が降っていたんですよ。それで、だったら<雨下の章>とつけようかな、と。『LILIUM』も雨が降っているお話だったので、その名残もありつつ。逆に<200年後編>は雨が降らない世界ということで<日和の章>なんですけど、内容的にも割とハートウォームな感じなんです。TRUMPシリーズって悲劇的な話が多いし、今作でもそういう要素がないわけでもないんですけど、<日和の章>は太陽が温かい感じがある。なので、この世界を楽しむための新しい見え方としてアリかなと思ってつけました。
鞘師 そういうことだったんですね。 実は今、台本を覚えている途中で。新良エツ子さんと会話するシーンが多いので、最近ふたりでリモートで読み合わせをしているんです。
末満 そうなんだ。ひとりでやるより覚えやすいもんね。
鞘師 その読み合わせの初日に、ふたりで「<雨下>と<日和>は対照的な話だね」と話して、悲しいお話が多い<雨下>のほうを先に覚えようってことになったんです。未来に明るいことがあるほうがいいで。「日和が待ってる!」みたいな感じで。
末満 ははは!
――ちなみに『LILIUM』は6年前の作品ですが、新良さんと読み合わせをされる中で感覚はスッと戻るものですか?
鞘師 いえ、最初は舞台に立っている想像もできませんでした。でも読み合わせをしたり、過去の作品を観させてもらって、TRUMPの世界観や空気感を今、身体に取り入れている感覚です。
――末満さんが現時点で「ここは大切にしてほしい」ということはありますか?
末満 特にないです。
鞘師 (笑)
末満 でも、6年の歳月がもたらすものは確実にあるだろうから。過去作品を観てもらうのもありがたいけど、どちらかというと、自分が経験してきたものを大事にしてもらえたらいいなと思います。
鞘師 はい!
――脚本は読んでいかがでしたか?
鞘師 読んでいてすごく楽しいです。短編アンソロジー形式で、どんどん話が変わっていきますし。お客様には新しい見応えを感じていただけるんじゃないかと思います。
――本当に多種多様なストーリーが楽しいですよね。そしてそれによってTRUMPシリーズの器の大きさも感じられました。岩井さんの脚本なんて、TRUMPの世界観でここまで笑うことできます!?って。
鞘師 たしかに(笑)。
末満 10年やってきましたからね。10年かけてしっかりした土台ができていったんだなと思います。でも実は、岩井さんの最初の脚本はシリアスなラブストーリーだったんですよ。だけど先入観で、僕、それをコメディだと誤読してしまって。
――ええ(笑)。
末満 それで、最初の脚本もすごくよかったんですけど、他にもシリアスなラブストーリーがあったので、岩井さんに「僕はこのラブストーリーをこういうふうに誤解したんです」とお伝えして、その方向で書き直していただいて、今の脚本になりました。だから最初とはガラッと変わったんですけど、僕も読んで、「ちょっと待てよ、これ。おもしろい」って(笑)。TRUMPの設定をうまく利用したコントになってますよね。
――皆さんそれぞれにすごく魅力的な脚本でしたね。
末満 できあがった脚本を最初に読んだ時、「そうそう、こういう俺からは出ないものが欲しかったんだ!」という気持ちでした。宮沢さんのお話は優しいヒューマンドラマだったし、来楽さんのシリーズの設定を巧みに使ったラブストーリーもうまいなと思ったし、降田さんのお話は流石ミステリー作家という驚きもあって。葛木さんのお話は観念的な罪悪と贖罪に関する物語で、お客さんによって捉え方が違うみたいな作品に仕上がっていて、僕はどうしてもわかりやすく書きがちなので、これをこの世界観の中で成立させられたら面白いなといました。中屋敷さんのお話は中屋敷さんワールドでぶっ飛んでいるし(笑)。純粋に読者として、読むのが楽しかったです。
――そして末満さんの書かれた脚本が大きな軸になっていました。
末満 一本の軸として僕の脚本がありながら、他の作家さんの脚本が振れ幅を出してくれるという感じですよね。いろんなストーリーがあるので、キャストたちのいろんなお芝居を観られる楽しみもあるだろうなと思います。
――そのキャストの皆さんもバラエティ豊かですよね。(キャストはこちら)
鞘師 私はキャストの皆さんのお名前を拝見してから、考えないようにしています。プレッシャーになるので(笑)。稽古では前のめりに勉強させてもらいたいという気持ちもありつつ、「『LILIUM』に出させてもらった」という気持ちもどっしり持って、やりたいです。
末満 ミュージカルにしても、僕が関わっている2.5次元作品にしても、TRUMPシリーズにしても、「なんかこの顔ぶれよく見るよね」とか「この人はいつもいるよね」みたいなことって見かけると思うんですけど、今回は、そういうことがない、あまり見たことのないようなキャストの並びにしたいなと考えました。ミュージカル俳優もいれば大ベテラン俳優もいて、声優もいて、芸人もいて、モデルもいて......とバラバラになりました。今回、他の作家さんに脚本をお願いしたのもそうですが、TRUMPシリーズを10年やってきて、物語を完結させるまでには多分あと最低10年くらいかかりそうな見通しなので、今までやってきたことをなぞるだけでは、これからの10年を自分の中で楽しめないなと思って。ここまでに固まってきたものを未来でまた強く固めるために、一旦ほぐしたい。今回はそれができる面白い顔ぶれが集まったから、このゴリゴリに固まった世界をかきまわして、また違った見え方を、お客さんにもそうだし、僕自身にも見せてくれるんじゃないかなという期待感があります。
――その中心に立つ鞘師さんは。
鞘師 私は変わらないほうがいいんですかね。
末満 うん。真ん中、中心軸だからね。自然と変わっている部分もあるだろうから、そこは大切にして、無理に変わろうとはしなくていい。
――音楽はどのようなイメージですか?
末満 どちらかというと、落ち着いた大人な雰囲気の楽曲世界になるんじゃないかな?と思っています。極力、生演奏にしたいんですよ。打ち込みも流すとは思いますが。ただ、そういうクラシカルな中でも、ロックのイメージがある松岡充さんに合う曲も、アイクさんが歌うラップの曲もある予定です。作曲の和田さんに「クラシカルな中でそういうことってできるの?」って聞いたら、「できます!」と言っていたので(笑)。
――ちなみに鞘師さん、末満さんってどんな印象ですか?
鞘師 なんか......親戚のおじさんみたいな(笑)。
末満 (笑)
鞘師 撮影で5年ぶりにお会いできたときに、「やっと会えたー!」みたいな気持ちになりました。実は休業していた間も、ファンの方からメッセージをたくさんいただいていて、その中に「もう一回TRUMPシリーズに出てほしい」というものが多かったんです。だからずっと頭の片隅には常に末満さんとTRUMPシリーズのことがあり、やっと会えた気持ちになりました。
末満 『ステーシーズ』で初めて会った頃、鞘師は13、14歳とかだったよね?
鞘師 そうです!
――当時はどんな印象でしたか?
末満 僕はアイドルとお仕事するのは『ステーシーズ』が初めてだったんですけど、やっぱり皆さん、何万人、何十万人に見てもらう世界で生きてる人たちなので、自己表現やキャラが飛び抜けている印象でした。でもその中で鞘師はなんか......嵐の中でそこだけ風が吹いてない、みたいな。落ち着いた子でした。
鞘師 本当ですか!
末満 さっきも"中心軸"みたいな話をしたけど、『LILIUM』のときも、鞘師が中心にいると組み立てやすかった。周りのキャラを濃くしても、芯(鞘師)がしっかりしてるから、作品が崩れないなっていうのがあって。でも当時、鞘師は「私、大丈夫ですか?」みたいなことを言ってたよね。
鞘師 え、覚えてないです(笑)。
末満 だから「そのままでいいから」みたいな話をした。鞘師がいると軸が通るというか。その軸があるからこそ、『LILIUM』の凛とした情緒のある世界観ができあがった。だから逆にサブにて暴れる鞘師もいつか見てみたいとも思ってるんだけど。今回は怪物みたいな表現者がゴロゴロしているので(笑)、鞘師を真ん中に置けば一本筋が通るなという安心感があります。
鞘師 今のお話を聞いて、余計なことを考えずにがんばろうと思いました。
――本番を無事、迎えられることを祈っています。
末満 感染者を出さないように気を付けながら。ただ、どれだけ予防しても、かかるときはかかっちゃうので。最大限予防しつつ、運に委ねつつ。
鞘師 こういう時だからこそ楽しみにしてくださっている方もたくさんいらっしゃると思うので。無事に開幕に辿り着けたらいいなという気持ちでいっぱいです!
9月20日(日)から10月4日(日)まで東京・サンシャイン劇場、10月14日(水)から20日(火)まで大阪・COOL JAPAN PARK OSAKA TTホールにて上演。
ライブ配信は9月22日(火・祝)、26日(土)、27日(日)、10月3日(土)、4日(日)の10公演。