シェイクスピアの喜劇『お気に召すまま』が、ブロードウェイの奇才マイケル・メイヤーの手によって現代によみがえる。トニー賞を受賞した『春のめざめ』では、19世紀ドイツの戯曲を"今"の青年の物語として活写し、絶賛を浴びたメイヤー。本作でも主人公のロザリンドが旅する「アーデンの森」を1960年代のロックフェスの会場に置き換え、ヒッピー文化を取り入れた音楽で盛り上げる。柚希礼音やジュリアン、橋本さとし、そしてマイコに小野武彦ら楽しみなキャストがそろう12月下旬の稽古場の様子をお届け。
稽古が始まり、まずは第2幕の第1場。ロザリンド(柚希)の父で今は追放されている前公爵(小野)が、従者のアミアンズ(伊礼彼方)らとヒッピーの聖地ヘイトアシュベリー(原作ではアーデンの森)でくつろいでいる場面だ。
アミアンズが弾くギターの音色に耳を傾けながら、座る人々を前に「逆境が人に与える教訓ほどうるわしいものはない」(原作の有名なセリフ)とうなずく前公爵の姿は、不思議な説得力をもつ。この場面では、同じくトニー賞受賞歴をもつ本作の音楽監督トム・キットの新曲が使われているのにも注目だ。
続いて第3幕の第2場。父である前公爵に会いに、男装して旅を続けるロザリンドと、現公爵の娘だが姉妹のように育ち、やはり変装してロザリンドに付いてきたシーリア(マイコ)。2人はロザリンドに恋するオーランドー(ジュリアン)と前公爵の従者ジェークイズ(橋本)にばったり出くわすが、彼らは変装した彼女たちに気づかず......というコミカルなシーンだ。
少年のようなたたずまいの柚希と、わざと野暮ったい格好をしたマイコが、先にオーランドーたちに気づいて物陰に隠れる。時折顔を見合わせて笑いながら彼らの様子をうかがう姿は、恋に恋する女学生に似てなんともチャーミング。そんなロザリンドなら、自分と気づかないオーランドーに"僕を彼女と思って告白の練習を"と言い出すのも自然に思える。
宝塚の元トップスターである柚希が"男性"ではなく"男装した女性"を演じ、かつオーランドーの前ではあたかも"男性"のようにふるまうという何重もの入れ子構造が楽しめるのも、柚希ロザリンドならではだろう。
稽古は他に第3幕第5場の、"ワシントンD.C."(原作では宮廷)側の人間でオーランドーの兄オリヴァー(横田栄司)がヘイトアシュベリーに足を踏み入れ、ヒッピーたちに感化されていくシーンも見られた。1960年代の曲「ホワイト・ラビット」が流れるなか、夢幻的なダンスに飲み込まれていくオリヴァーの姿が印象的だ。
原作、演出、音楽、そして演者と最強のコラボレーションが実現した本作。おなじみの戯曲ながら予想不可能なその本番を、今から期待して待ちたい。
公演は2月4日(土)まで、東京・日比谷 シアタークリエにて。
取材・文 佐藤さくら