過去を破壊。新たに誕生するカリギュラ!
蜷川幸雄率いる若手演劇集団さいたまネクスト・シアターの1年ぶりの本公演が決定しました。
作品はノーベル文学賞作家アルベール・カミュの『カリギュラ』。
妹ドリュジラの突然の死をきっかけに、暴君と化した若きローマ皇帝カリギュラ。愛する妹の死はカリギュラに"人は必ず死に、人生は無意味である"という不条理を突きつけます。
常軌を逸したカリギュラの行動は、まるで世界の不条理に抗おうとする痛切な叫びのようにもみえます。
様々な作品に携わってきた蜷川さんですが「若い時に自分がやりたかった」くらい"好きな戯曲"だという本作。
2007年に小栗旬さんを主演に迎え上演しましたが、今度は「現在の鉛筆みないに華奢な若者たちの肉体を中心に、以前とは全く別な作品を創りたい」と新しい『カリギュラ』の創造に意欲を燃やしています。
そんな蜷川さんの熱い想いを受け、若者たちはどのような気持ちで挑むのでしょう?
主要キャストのメンバーに質問をぶつけてみました。
トップバッターはカリギュラ役の内田健司さん。彼は「ザ・ファクトリー4」『ヴォルフガング・ボルヒェルトの作品からの九章―詩・評論・小説・戯曲より―』でも主役を務め、その演技が蜷川さんに認められてのキャスティングです。
今回の舞台では自身のどんな部分を見せたいと思っているのか内田さんに伺いました。
「自分の中で見せたいという部分は特にありません。しかし、正しく伝えるべき物語であり、自分が大きな部分を担っているという責任感はあります。僕は僕なりに成立させるためのことを何でもやり、悪手は悪手で蜷川さんに容赦なく切り捨てていただいて、何とかわずかな滴を搾り出せたらと思います」
カリギュラ役/内田健司(うちだ・けんし)
蜷川さんは彩の国さいたま芸術劇場の情報誌<埼玉アーツ・シアター通信>の中で、「ヴォルフガング~」の内田さんがよかったとおっしゃってます。その理由として「彼が味わってきた苦渋と、時代を象徴する痩せこけた身体が活かせたんじゃないかな」と。
現代の若者を象徴するかのような内田さんの身体を通し、どんなカリギュラが誕生するのか期待が高まります。
続いて、カリギュラの情婦・セゾニアをダブルキャストで務める周本絵梨香さんと浅野望さんです。それぞれ、役に対する意気込みを伺いました。
「不条理劇と言われている『カリギュラ』ですが、むしろ世界の不条と論理で闘おうとするカリギュラの純粋さに共感せずにはいられません。私はセゾニアという役を通して、彼と同じものを見ていたいと思います。」
セゾニア役/周本絵梨香(しゅうもと・えりか/ダブルキャスト)
「私が初めて『カリギュラ』の戯曲を読んだのは3年前で、その時はセゾニアってなんてバカな女なんだろうと思っていました。でも今は、彼女はすごく愛のある女性なのだということがわかります。彼女は多くのコンプレックスを抱え、でもそんな中でもカリギュラのことを1番に考えていて、カリギュラ中心の世界で生きているんです。そんなセゾニアの究極で、まっすぐな愛を表現できたらなと思っています。」
セゾニア役/浅野 望(あさの・のぞみ/ダブルキャスト)
浅野さんは2012年のオーディションで入団した3期生。今回、大抜擢されました。ベテラン組の周本セゾニアとの対比もみどころのひとつになりそうです。
若き詩人・シピオンを演じるのは白川大さんと砂原健佑さん。こちらもダブルキャストです。
同じく意気込みを伺いました。
「2007年に上演した『カリギュラ』で、シピオンを演じた勝地涼さんに強い憧れがあったので、同じ蜷川さんの演出で、この役が出来ることは本当に光栄です。蜷川さんのダメ出しも、砂原君へのダメ出しと僕へのダメ出しは違うので、良い刺激をたくさん受けています。お互い違うシピオンになると思いますので、その部分も楽しんでください。」
シピオン役/白川 大(しらかわ・まさる/ダブルキャスト)
「シピオンはカリギュラに対する憎しみと愛の狭間で生きている、ということを前提に舞台に立っていたいです。「詩」によって感情の変化が激しくなるシーンでは、特に大胆かつ繊細に演じたいです。」
シピオン役/砂原健佑(すなはら・けんすけ/ダブルキャスト)
さて、ベテラン組からは小久保寿人さんと川口覚さんがそれぞれ重要な役を務めます。
ふたりには、過去4回の公演に参加した経験を踏まえて、今回この役にキャスティングされたことについてと、ネクスト・シアター全体の事について伺いました。
「まず、ネクストに入って、一番意識するようになったのは、自分がどの様な素材の役者なのか意識する事が大切だという事でした。つまりサッカーで例えるなら、演劇というフィールドの中で、どのポジションを狙うのか、フォワードなのかボランチなのか、その為に何が必要かを考えることでした。
僕はネクストの公演は一年に1回の武者修業だと思っています。過去4回どれも辛かった思い出しかありません。でも他のどの仕事よりも充実感があるんです。蜷川さんも遠慮なくズバズバくるし―少しだけ遠慮してほしいのですが...(笑)―。僕ら若手もそれになんとかくらいついてやろうと思うから、ネクストの現場の空気は独特なんです。僕はそれが大好きで。
そんな中、今年で6年目になるのですが、今まではとにかく必死に魂燃やして芝居をするという事だけでやってきましたが、そろそろ次のステップに進まなきゃいけない。アプローチもスタンスも含めてもう一段上のレベルで芝居をしていかなきゃいけないと思っていたのですが、蜷川さんもそこを指摘してくださって、今までの芝居でついたクセみたいなものを、直そうとしてくださっています。今回の公演でそこをクリアできたら、また新しい何かが見えてくるのかなと思っています。」
エリコン役/小久保寿人(こくぼ・としひと)
「今回の『カリギュラ』は僕がネクストに入って5回目の公演になるのですが、いまや僕はネクストの中ではベテラン組で...。今稽古をしている最中ですが、僕ら1期生は、[蜷川さんの稽古場とは?]その全てを、2.3.4期生に伝えるのが大事なことだと思っています。
やっぱり1期生は、今残ってるメンバー全員、蜷川さんの厳しい愛情を受けてきてますから(笑)」
ケレア役/川口覚(かわぐち・さとる)
【写真:細野晋司】
公演は2014年2月15日(土)より彩の国さいたま芸術劇場インサイド・シアターにて。
(全14公演)
《あらすじ》
溺愛する妹ドリュジラの突然の死をきっかけに失踪した若きローマ皇帝カリギュラ。3日ぶりに姿を現わした彼は、ローマ市民の財産の没収と無差別に市民を処刑することを宣言し、以後、ローマ帝国を恐怖のどん底に落とし入れる。
3年が過ぎ、屈辱に耐えかねた貴族たちはクーデターを画策するが、貴族ケレアは時期尚早だといさめる。ケレアはカリギュラの狂気に何か大きな理念を感じており、カリギュラの論理が錯乱するのを待つつもりだった。一方、若き詩人シピオンは父親をカリギュラに惨殺され、彼もまたカリギュラを憎んでいたが、カリギュラと言葉を重ねるうちにカリギュラの想いを理解し始める。
カリギュラの情婦セゾニア、カリギュラによって奴隷から貴族に重用されたエリコンは、カリギュラを理解し、彼を支え続ける。しかし、貴族たちのクーデターはすぐそこまで迫っていた――。
★さいたまネクスト・シアターとは...
彩の国さいたま芸術劇場芸術監督・蜷川幸雄率いる若手演劇集団。「次代を担う若手俳優の育成」を目的に、公演を通した実践的な俳優育成を行っている。2008年12月に「若手俳優オーディション」として募集開始。応募資格を満たす全員(1,169名)に実技試験を行い、合格した44名で始動。演技経験者、演劇系学校の卒業生から全く演技経験の無いものまで幅広く所属しており、蜷川幸雄と共に常に刺激的な"新しい演劇"創りを目指している。これまで4回の本公演を実施。第2回公演、第3回公演で読売演劇大賞優秀作品賞を連続して受賞。近年は日々のエチュード(習作)を発展させた"ザ・ファクトリー"シリーズを展開している。現在のメンバーは36名(男性24名・女性12名)。平均年齢25歳。(2014年1月現在)
【公演情報】
彩の国さいたま芸術劇場開館20周年記念
さいたまネクスト・シアター第5回公演
『2014年・蒼白の少年少女たちによる「カリギュラ」』
2014/2/15(土) ~ 2/27(木)
彩の国さいたま芸術劇場 インサイド・シアター(大ホール内) (埼玉県)
[作]アルベール・カミュ
[翻訳]岩切正一郎
[演出]蜷川幸雄