■見なきゃ損!話題の公演■
Wアンコールにスタンディングオベーション。客席も舞台上の役者たちも温かな気持ちに包まれながら物語の余韻を味わい、自然と笑顔が浮かんでくる――。再演版『キサラギ』はそんな幸せな空気の中、"凱旋ツアー"のスタートを切った。
自殺してしまったアイドル・如月ミキの一周忌に集まる5人の男ーファンサイトを運営する家元(松岡充)とサイトの常連である安男(碓井将大)・スネーク(浅利陽介)・オダ・ユージ(今村ねずみ)・イチゴ娘(中山祐一朗)。彼らはネット上でのつき合いを飛び出したリアルでの出会いを喜びつつ、死を悼む気持ちを共有。共に我が愛する如月ミキへの想いを語り合う。しかしヲタトークが熱を帯びたそのとき、オダ・ユージが意を決して切り出した。「ミキの死は自殺なんかじゃない。彼女は殺されたんだ」と。そして事態は一変、互いを探り合いながらの"犯人探し"が始まるが......。
5人が集まるのはミキが最初で最後のコンサートを開いた思い出の市民会館。閉館間際の寂れたムード漂うガランとした空間は、D級アイドルであった亡き想い人を忍ぶにはうってつけの場所だ。
互いをハンドルネームで呼び合い微妙な距離感を保ちつつ、愛するモノが同じという最大の共通点を持った不思議な関係の5人。最初こそ遠慮はあるものの、内から溢れる想いに任せてそれぞれが如月ミキへの愛情を語るたび、物語のフォーカスがグイッと動き、ハンドルネームの先にあるそれぞれの人間性が見えてくるのが面白い。
物語の軸となる家元を演じる松岡は普通にしていれば普通にモテそうな青年なのに、ミキちゃんのこととなると超ハイテンションで見境なくなってしまう"残念"なところが魅力。安男役の碓井はひょろひょろっとした頼りない風貌と肝心なところで見せる"強い男の子"のギャップが光り、スネーク役の浅利は一見チャライ青年が抱くピュアな純愛を微笑ましく伝えてくれる。静かな変態!?と思わせ実はワケありのイチゴ娘を演じる中山、スラリとダンディなスーツ姿の裏にパッションを秘めたオダ・ユージ役の今村ら、場を締めてくれる大人組の存在も力強い。
昨年の初演の評判を受けて招聘された今年7月のロサンゼルス公演、そして9月の日本でのプレビュー公演と、既にこのカンパニーでのステージを複数回経た初日だけあり、"密室の笑える会話劇・サスペンス風味"に欠かせないテンポとコンビネーションはバッチリ。5人5様の個性的なキャラクター、そしてふとしたきっかけから彼らがミキを"本当に好きだった理由"が吐露されるほど観客はストーリーに引き込まれ、次第に見たことのないアイドル・如月ミキのことも好きになって来てしまう。だからこそ、クライマックスの"ヲタ芸"にも自然と手拍子が沸き上がるのだろう。
序盤、レアなお宝を自慢し合いながらヲタ話に興じる5人は本当に生き生きとしている。また、悲しみを乗り越えながらもミキの死因を解明しようと全力で頭をひねり検証して行く姿はとてもいじらしい。アイドルはみんなのものだけど、彼女たちを支えるファンひとりひとりの中には必ず大切にしたい"自分だけの思い出"がある。そして好きな人を支え応援したいという思いは、一方で同じくらいのパワーで自分自身の支えや生きる糧にすらなっている。そんなことを改めて感じさせてくれるやさしさと人間味溢れる推理の過程、そして導き出される死の結論――。そこにある心地よさ、愛情の深さを、ぜひ劇場で感じてみて欲しい。
text:横澤由香
現在、シアタークリエで上演中の『キサラギ』は、残念ながらチケット完売していますが、追加公演があります! チケットは絶賛発売中!! 公演詳細・チケット購入はコチラから