小林聡美×長塚圭史『ハーパー・リーガン』、いよいよ大阪に上陸!

劇作家・演出家の長塚圭史が昨年まで滞在していたロンドン留学中に出合い、演出を熱望したという舞台『ハーパー・リーガン』。08年に英国で上演された本作を書いたのは、71年生まれの英国人劇作家サイモン・スティーヴンス。75年生まれの長塚とは同年代で、現代のなにげない日常の中に人間の本質を鋭くとらえる気鋭の作家だ。これが5年ぶりの舞台出演となる小林聡美がタイトルロールのハーパーを演じ、木野花、山崎一、大河内浩、福田転球ら実力派と、美波、間宮祥太朗といった若手注目株の役者たちとで贈る繊細な舞台。その東京公演を観た。

現代のロンドン。父親が危篤に陥り、職場の上司バーンズ(大河内)に休暇を願い出たハーパー(小林)は、納品の期日が迫っていることを理由にすげなく断られる。その日をきっかけに、ハーパーの胸には仕事を辞めて家にいる夫セス(山崎)や、成績優秀だが難しい年頃の娘サラ(美波)、しばらく会わずにいる母親のアリソン(木野)らとの問題が頭をもたげ始める。家族に行く先も告げずに旅へ出たハーパーは、バーで隣同士になったミッキー(福田)や運河を眺める青年トビアス(間宮)らと出会ううちに、目を逸らしてきた自らの内側を見つめることになり...。

物語は大きな事件があるわけではない。木野、小林、美波と続く母と娘の葛藤、インターネットでのある事件をきっかけに互いに触れなくなった妻と夫など、いくつかの切り口は提示されるものの、それのみにテーマを求めてしまうと本作の核を見落としてしまう。その分、役者の存在感が担う役割りは大きい。小林は夫の代わりに働きながらも、母親との関係では成熟しきれない41歳のハーパーを淡々と、時折焦燥感をにじませながら演じている。映画では『かもめ食堂』『めがね』など芯のブレない独身女性に扮して人気だが、本作では真逆の役どころ。改めて彼女の深い力量を感じた。また、短い登場時間にも関わらず、セリフの言外に人生の断片を匂わせる木野がさすが。ぼんやりとした輪郭で存在し続けるセス役の山崎、ありがちな若者像ながら17歳らしい短絡さがどこか微笑ましいサラ役の美波が印象的。共に海外でも活躍する松井るみの美術と小野寺修二の振付が、その世界観にリズムを加えている。

長塚は、いわゆる小・中劇場的な作りのスピード感にリアルな毒と笑いをまぶした戯曲と、同世代の海外劇作家の作品の演出とで、20代から注目されてきた。今年35歳。元々物語性の高さは指摘されていたが、異国での生活を経てよりテキストとしての戯曲を読み込む方向に移行し始めたように感じる。その行方を興味深く見守りたい。

公演は9月29日(水)に水戸芸術館ACM劇場、10月2日(土)~3日(日)まで大阪・シアター・ドラマシティにて上演。

文:佐藤さくら

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