「シダの群れ」ゲネプロに行ってきました

●よこやまのステージ千一夜●

約２ヵ月ぶりの更新という事実にビックリしている、よこやまです。
暑いですね、９月になっても。

さて、昨日9月5日よりシアターコクーンで開幕した
岩松了さん作･演出の「シダの群れ」ですが、
このゲネプロに土曜日（9月4日）行って参りました。

岩松さんが描く"ヤクザもの"とは、果たしてどんな手触りなのか、
興味津々です。

岩松さん自身「今回のキャスティングには大満足しています」とコメントするように、
出演者も充実の顔ぶれ。

阿部サダヲさん
江口さん扮するタカヒロを慕う舎弟の森本。

江口洋介さん
組長の愛人・真知の息子で人格者のタカヒロ。

小出恵介さん
組長と本妻との息子で、下っ端には高圧的な態度に出るツヨシ。

伊藤蘭さん
息子のタカヒロを何とか次の組長にしたいと願う、現組長の愛人・真知。

風間杜夫さん
病に臥している組長に代わり、組をまとめている片腕の水野。

ほか、ツヨシの子を宿す愛人役の黒川芽以さんなど、魅力的なキャストが勢ぞろいです。

こんなお話です。

組長が病床に臥す志波崎組は、昔からの組長の片腕である水野(風間杜夫)が仕切っている。
ある日、組長の愛人(伊藤蘭)の息子で、組員からも信頼の厚いタカヒロ(江口洋介)が
刑期を終えて戻ってきた。
そんなタカヒロと二代目組長の座を争うツヨシ(小出恵介)は、組長と本妻の息子。
彼には本妻・リン(江口のりこ)がいるが、美人で得体の知れない京女・ヨーコ(黒川芽以)を愛人にし、
ヨーコのお腹に自分の子を宿している。
そこにツヨシの本妻との息子・マサハルが敵対する組に拉致されそうになり、
銃撃戦が展開される。
何とか無事にマサハルは戻ってくるが、その原因を作ったのは森本(阿部サダヲ)。
タカヒロを慕う下っ端チンピラの彼は、組長の孫を危険な目に遭わせたとして、
肩身の狭い思いをする。
しかしこの孫拉致未遂事件を契機に、
水面下で静かに争われていた跡目問題が、徐々に表面化して......。

本公演のチラシは、東映の映画『仁義なき戦い』を模したものとなっていて、
さぞや血で血を洗う抗争が舞台上で繰り広げられるかと思いきや、
そこはやはり岩松作品。
ヤクザの組という狭い括りのなかでの、濃くて、非常に面倒な人間関係が
繰り広げられていた。

皆、腹にいちもつ抱えているのだ。

それでも表面上は穏やかだ。

「おい、コーヒー飲むか？」

「あら、コーヒー淹れてくださらないの？」

そんなどこの日常にでもありそうな他愛もないやりとりが
この組内で何度となく交わされ、それが時に笑いを呼び起こす。
やがて事態は、この何気ないコーヒーの問いかけすら答えられないほど、
相手を憎んだり、見切ったり、と
様々な感情が湧き上がっていく......。

また、この舞台の妙は、岩松さんが
それぞれの俳優さんにパブリック･イメージとは違う役を当てているところ。

風間杜夫さんは、ドスの利いた台詞のハマり具合はさすがの一言。その反面、グリーン豆やコーヒーに目がないところもお茶目。また存在感も圧倒的で、風間さんが真ん中にいることで空間が落ち着きが出てきます。

阿部サダヲさんは、舎弟的な役どころは他の舞台でも拝見したことがありますが、今回ほど居場所のない役どころは初めてではないでしょうか。タカヒロを慕うが、その彼にはヤクザ世界から足を洗えなどと言われ、この舞台は阿部さん扮する森本目線で見ると、非常に切ない作品だといえます。

江口洋介さんは、人格者で組員にも慕われながら、愛人の子という出自により報われない役どころです。ドラマなどでは決して見られない、複雑な心情を持つ男を丁寧に演じています。

伊藤蘭さんは、組長の2号さんという立場で生きてきただけあって、実に腰の据わった女性。コミカルなシーンもあるのですが、何せ目が笑っていない......。口元は笑っていても目が笑っていないのですから、末恐ろしさを感じます。

小出恵介さんは、この舞台で一番パブリック･イメージを崩したのではないでしょうか。ご本人も「今まで演じたことのないヤクザの若頭という役に挑戦しています」とコメントしている通り、次期組長をタカヒロと争うツヨシ役。人間的には2号さんの息子であるタカヒロ兄さんに敵わないので、下の人間には強く出て、力量以上に自分を大きく見せています。

個人的にはナイスキャスティングと思ったのが、黒川芽以さん。京都弁のはんなりした言い回しで、のらりくらりと面倒な人間関係をかわし、それでもツヨシの子を宿してその場に居続けるしぶとさを持つヨーコ役です。伊藤蘭さんといい、黒川芽以さんといい、しぶと過ぎる女性ふたりがこの舞台を面白くしてくれています。