●よこやまのステージ千一夜●
昨日、本日(7月1日)に初日の幕を開ける
新国立劇場演劇「エネミイ」のゲネプロに行って参りました。
撮影:谷古宇正彦
脚本はモダンスイマーズの蓬莱竜太さん。
演出は鈴木裕美さん。
出演者は高橋一生さん、高橋由美子さん、梅沢昌代さん、粕谷吉洋さん、
高橋長英さん、林隆三さん、瑳川哲朗さん。
1976年生まれの蓬莱さんが、学生運動について、"戦いとは何か"について書く、
と聞いて、ご自身の劇団モダンスイマーズのようなさぞ男くさい芝居になるかと思いきや、
そこは鈴木裕美さんの演出が利いていて、
痛快で繊細でテンポがいい!!
作品となっていました。
蓬莱さんと鈴木裕美さんの相性の良さは
今年2~3月に上演された
自転車キンクリーツSTORE「富士見町アパートメント」で実証済み。
個人的に「富士見町アパートメント」は今年3月の観劇No.1でしたので、
期待どおりの作品に仕上がっていました。
キャストも適材適所でいい味を出していました!
以下、レポートです。
撮影:谷古宇正彦
舞台は比較的裕福な暮らしをしている家庭のリビング。
30過ぎてもフリーターの礼司(高橋一生)の一家はごくごく普通。
父・幸一郎(高橋長英)は安定した一流企業に勤めていて定年間近。
母・加奈子(梅沢昌代)は大雑把だが底抜けに明るい性格。習い事になにより熱心。
姉の紗江(高橋由美子)は、竹を割った性格で仕事人間。今は婚活に燃えている。
ある日、礼司と紗江ふたりが家にいるときに、
幸一郎の古い知り合いと名乗る男ふたり(林隆三&瑳川哲朗)がいきなり家にやってくる。
夜になって幸一郎が帰ると、そこに招かざる客が来ているのだが、
何かと気を遣いふたりを幸一郎はもてなす。
家族は父の様子を見て、このふたりをあまり邪険にはできない雰囲気を察する。
しかし、宴会も済んだのに全く帰る気配のないふたり。
農業で身を立てているというこの男たちだが、
携帯もインターネットもよく知らないという。本当に農家なのか?
家族が動揺するなか、
結局このふたりはこの日は泊まっていってしまう。
まるで家族のように家に居ついてしまうふたりは、いつ帰ってくれるのか......!?
撮影:谷古宇正彦
まず家族のキャラ分けがはっきりしているのがいいです。
気が優しいのかおっとりしているのか、自分の意見をはっきり言わない
息子・礼司 と 父・幸一郎
まったく空気を読まず、自分の興味のあることしか考えていない破壊力満点の
娘・紗江 と 母・加奈子
男の面白くない議論をいつだって破壊するのは、空気の読めない女たちのジコチューな会話だといつも私は思うのですが、
この作品の底辺にある学生運動、安保闘争 というきな臭さを
紗江役の高橋由美子さんと 加奈子役の梅沢昌代さんの強烈なキャラクターが
吹き飛ばしてくれるのが実に痛快。
そして。
撮影:谷古宇正彦
この家族にのらりくらりと入ってくる
一見物腰がやわらかだが、人に話をさせてはそこの矛盾を突いて意見を述べる
油断も隙もない男・瀬川(林隆三)と
豪放磊落で声が大きく、酒好きで瀬川と行動を共にする成本(瑳川哲朗)。
特に瑳川哲朗さんはこの人が家に入って来たらもう抵抗できないというくらいに、
実にあっけらかんと遠慮もなくずけずけ自宅に入ってきては、
妙に家族と意気投合してしまうのがおかしいです。
林隆三さんはいかにも瑳川さんと真逆の、世慣れている胡散臭い男といった風。
自宅にパラサイトするフリーターという境遇を皆に突っ込まれる
礼司役の高橋一生さんは、主人公の繊細な性格を表現していました。
人の会話を聞いていないようでちゃんと聞いていて、
伏せ目がちに絶妙な間合いで返事をする様がいいですね。
高橋長英さんは、瀬川役の林隆三さんと成本役の瑳川哲朗さんと
家族に言いにくい過去を共有しているのか、
ちょっと情けなくも見えるのですが、途中活躍する痛快な場面もあるので
こちらもお楽しみに。
骨太な男芝居を得意とする蓬莱竜太さんの脚本としては珍しく、コミカルなセリフも多いのが特徴です。
笑いをまぶしながらも胸をえぐるようなセリフもあり、
団塊の世代から10代、20代まで、幅広い世代に観てもらえるといいかもしれませんね。
戦いとは何か?戦いとはそんなに遠いところにあるのか?身近にはないのか?
答えは実際に見て考えてみてください。
新国立劇場演劇「エネミイ」 は、新国立劇場 小劇場にて7月18日(日)まで上演中です。
チケットは現在発売中。