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ミュージックホールでたまたま知り合った謎の美女と、どういうわけか一夜をともに過ごすことになった主人公。甘い雰囲気を期待するも、その美女が謎の言葉を残して殺された! わけのわからないまま国家をゆるがす陰謀事件に巻き込まれ、かつ殺人容疑で指名手配されてしまった主人公の命運やいかに......!? ジョン・バカンのスパイ小説「三十九階段」及び、その小説を原作にしたアルフレッド・ヒッチコック監督映画「三十九夜」をもとにしたイギリス発の人気舞台『THE 39 STEPS ザ・サーティーナイン・ステップス』が、51()より東京・シアタークリエで上演される。登場する139役を平方元基、ソニン、あべこうじ、小松利昌のたった4人の俳優で演じる、サスペンスにして極上のコメディ。4月下旬のある日、この稽古場を取材した。

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取材日の稽古は、2幕冒頭のシーンからスタート。場所はのどかな田舎のようだ。マーガレット役のソニンが牧歌的な歌を口ずさむ一方、平方扮する主人公リチャード・ハネイは裁判所で判事(小松)を相手に、重大な事件が起きていることを訴えている。親身になって話を聞く判事。すでに大逃亡劇を繰り広げているハネイ、ここでやっと身の潔白をわかってもらえるか......と思いきや、実は判事は時間稼ぎをしていただけ。こっそり呼んでいた警官(あべ)に手錠をかけられ、ハネイ大ピンチ! 格闘の末、ハネイは窓から逃亡し......。おそらく本番では数分のシーンであろうが、2幕の幕開き早々、ハイスピードかつ、情報量の詰まった展開である。さらに演出のウォーリー木下からは「ソニンさん、出てくる時にその窓枠を持ってこられますか?」など、容赦なく役割が与えられていく。ただでさえ出ずっぱりで大忙しの俳優たちだが、この作品、舞台上のセット転換なども俳優が担う部分が多い。慌ただしいセットチェンジが可視化されることで、物語のスピード感が上がっていく。

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場面も役柄もくるくる替わり、さらに転換も担う俳優たちが肉体を酷使している様はそれだけで楽しくドタバタコメディとして成立しそうだが、この熟練の4人の俳優は、それだけで終わらせない。決め事が多い舞台なだけに動きも細かく指定されている模様だが、ソニンは木下に"その動き"をするためのキャラクターの心情の調整を相談したり、「ここ、ブラシ使っていいですか?」と小道具をリクエストしたりと積極的に役を深めている。あべからは木下に「この警官は電車のシーンに出てきた警官ですか?」という質問が。台本上の指定はないようで、木下が「その方がハネイは反応しやすいからテンポがよくなるよね、ハメられた感が出て」と判断し、同じ人物になった模様。小松は、電話で喋りながら電話の向こうにいる通話相手の声も担当するなどアクロバットでユニークな演技を器用にこなし笑わせる一方で、「この赤い幕はあべさんに運んでもらった方が(効率がいい)」など、俯瞰した視点からの提案もしている。ちなみにふたりで135役を演じていくあべと小松は"クラウン"と呼ばれる役柄。ただし、様々な役を演じるふたりをクラウンと称しているのではなく、ふたりはクラウンを演じ、そのクラウンが様々な役を演じていくという構造のようだ。ある役の衣裳を着てもすぐにその役になるわけではなく、クラウンでいる状態もあり、"スイッチが入る瞬間"が舞台上であるのが面白い。

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そしてハネイを演じる平方が、誰よりもハードに動き回る。思いもよらない事件に巻き込まれ、追い詰められながらも、この危機を救えるのは自分だけだと奮闘する。平方は危機に陥っているのに美女に会って目尻を下げる人間臭さなどが可愛らしい一方で、激しいアクションシーンもカッコ良くバッチリ決める。平方の愛らしい個性は、いわゆる"巻き込まれ型主人公"が非常によく似合うし、ハネイは間違いなくそのタイプではあるのだが、受け身なだけではない力強さが平方の全身から伝わってくるのもいい。ミュージカルデビュー10周年の節目を迎えている平方のこれまでの経験値が確実に自信となり、ハネイに注ぎ込まれている。同時に平方自身がこのハードな役を楽しみながら演じているのもよくわかる。

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手に汗握るサスペンスフルな物語展開に、ドタバタだけではない俳優たちの名演が期待できる『THE 39 STEPS』。とはいえやはり、"物語の外"の見どころもたくさんある作品だ。セットチェンジは「先にスクリーンを出さないと......」など、さながらパズルのように試行錯誤しているし、シーンの稽古の前に「モノの出し入れの練習をさせてくださーい」という時間があったり、クラウンたちは効果音さえも口で言っていたり。さらに音楽を担当するバンド・ザッハトルテもすでに稽古に合流。ストレートプレイではあるが音楽も重要な要素で、ナンバー数も多い。雷やフィルムのまわる効果音などもバンドが出しているのも面白いし、クラウンたちの衣裳チェンジにかかる時間にあわせて音楽の長さを調整もしている。全方位にわたってアナログな手間を随所に仕掛けている作品だ。だが、大変さはビシバシ伝わるものの"ピリっと"感はまったくしない。座長の平方に至っては、ちょくちょく取材カメラに向かってポーズを送ってくれるサービスっぷり。みんなが楽しんでいることが伝わってくる稽古場だった。手作り感満載、愛情いっぱいの"全力演劇"。演劇を愛する人こそ、大好きな一作になりそうだ。

公演は51()から17()まで。チケットは発売中。(取材・文・撮影:平野祥恵)

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ミュージカル『リトルプリンス』が、18()より東京・シアタークリエにて上演される。サン=テグジュペリの『星の王子さま』を原作に、音楽座ミュージカルが1993年に初演して以降、上演を重ねている人気作だ。今回、演出を手掛けるのは、近年『シャボン玉とんだ 宇宙(ソラ)までとんだ』『マドモアゼル・モーツァルト』と音楽座ミュージカルのリメイクを次々と手掛けている小林香。主人公の王子を加藤梨里香と土居裕子がWキャストで演じ、飛行士/キツネ役を井上芳雄、ヘビ役を大野幸人、花役を花總まりが務めるという豪華配役で新たに生まれ変わる名作に注目が集まっている。この稽古場を取材した。

この日の稽古メニューは、最初から最後のシーンまでを通す"荒通し"。初めて全シーンを繋げるということで、演出の小林より「目的は流れの確認です。何か危険だなと思ったら止めてください。ケガをしないように」と注意喚起があったのち、スタート。冒頭は井上芳雄扮する飛行士が嵐の中、飛行機を飛ばそうとする場面だ。この物語、本筋は原作の『星の王子さま』から大きく乖離しないが、ところどころ、飛行士の背景に作者のサン=テグジュペリの人生をオーバーラップさせることで、ファンタジックな世界と現実世界をリンクさせる。井上の演じる飛行士は少し厭世的な雰囲気も漂い、この人の抱える悲しみの元は一体何なんだろう? ......と、冒頭から心を掴まれてしまう。

飛行機は砂漠に不時着し、飛行士はそこでひとりの不思議な少年――王子と出会う。王子は子どもらしい純粋さで飛行士を質問攻めにし、絵をねだり、自分の星の話を語り、飛行士を戸惑わせる。取材日の王子役は加藤梨里香。Wキャストのもうひとりの王子・土居裕子は本作の初演でも王子役を務め、そのオリジナルキャストである土居がふたたび王子を演じるということで話題だが、加藤もまだ23歳ながら子役時代から数えキャリアは十分、2016年にはミュージカル『花より男子』で3000人以上の中からオーディションで主人公・牧野つくし役を勝ち取ったスター性と実力の持ち主だ。加藤は目を輝かせて自分の星のことを語ったかと思えば目をまんまるにして驚き、次の瞬間にはこぼれる笑顔を見せる。マスク越しであることすら気にならなくなってしまうほどの、表情の豊かさだ。何よりボーイソプラノのように透き通った健康的な歌声は、王子の純粋さにぴったり。加藤、実は生まれながらの"星の王子さま"なのでは......!? と思ってしまうほどの天然王子っぷり!

王子は飛行士に、これまでにめぐってきた星での出来事を語る。それらをダイナミックなダンスで繋いでいくことで、オムニバスのように語られるエピソードの数々が、王子の旅路という大きな流れにまとめられていく。星々で出会った人々もユニークだ。王様、実業家、呑み助、うぬぼれ屋、点灯夫、地理学者といったキャラクターを演じるのは縄田晋、木暮真一郎、桜咲彩花。童話的でユーモラスな役どころを彼らがめまぐるしく演じていくさまは楽しく、ミュージカルとして盛り上がるポイント。黄花役の加藤さや香の美しいダンスも印象的だ。

さらに王子が星を飛び出る、そして星に帰りたいと思う原動力となる花を演じる花總まりが絶品だ。王子の星に咲いた、たった一輪の美しい花。花總の花は、ワガママだけれど高貴で品があり、まさに"唯一の存在"。そのワガママも、王子の気を引きたいという感情が伝わり、憎めないのだ。花の世話を真剣な表情で懸命にする加藤の王子の可愛らしさも相まって、忘れがたいシーンになりそう。また、妖しい魅力としなやかなダンスで異質の存在感を出していたヘビ役の大野幸人も、インパクト大。井上が二役で演じるキツネも忘れてはいけない。キツネは作中の非常に有名なフレーズ「大切なものは、目には見えないんだよ」という言葉を口にし、また王子に"自分にとっての特別"を気付かせる重要な存在だ。井上の、小道具も巧みに使って演じる芸達者ぶりはさすがで、共演者たちからも笑い声があがる。だがキツネはちょっと今までの井上にはない意外なキャラクターにもなりそうなので、お楽しみに。

宇宙への憧れを歌う『アストラル・ジャーニー』、自分の星への思いを歌う『シャイニング・スター』など、作品を彩る音楽も美しく、心にすっと届くものばかり。王子は星々をめぐり、地球の砂漠で飛行士と旅をする中で、自分の花がほかの花たちとは違う、ただ一輪の花だったことに気付く。同時に、キツネがほかの多くのキツネたちとは違うただ一匹のキツネになり、飛行士は大勢の人間の中のひとりではなく"友だち"になる。それは飛行士にとっても同じで、王子は飛行士にとっての希望となる。"誰か"が、"特別なひとり"であることに気付く旅路を、美しい音楽、夢のようなダンスで詩的に美しく描くミュージカル。美しいのに悲しく、悲しいのに、心が洗われる。なんだか自分の心の奥にたまった澱が洗い流されていくような感覚だ。年明け、"気持ちを新たに"一年を始めるには、ぴったりの作品になりそうだ。

公演は202218()から31()まで、シアタークリエにて上演。2月には愛知公演もあり。(取材・文・撮影:平野祥恵)

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稽古場は緊迫感につつまれ、今にもなにかが弾けそうだった。

この日の『hana-1970、コザが燃えた日-』の稽古は、クライマックスのあるワンシーン。照明を落とした薄暗い稽古場で、兄弟──松山ケンイチ演じるハルオと、岡山天音演じるアキオ──が向かい合う。二人のいる場所は、実家である嘉手納基地近くのパウンショップ(米兵相手の質屋)&バー『hana』。敗戦から25年経ち、しかし"まだ戦争は終わっていない"沖縄の地で、二人の思いがぶつかる。

演出の栗山民也が台本を片手に舞台へあがり、「この台詞でここに立って」と自分で動きながら立ち位置を指示する。松山と岡山は瞬時に対応し、身体の動きの変化に連動して、声のトーンも変化していく。

また、栗山は「この台詞は立たせて」と声の強弱をつけたり、たとえば小道具を持たせて目立たせたりする。すると、舞台上においてどの瞬間になにが重要になるのかが整理され、俳優たちの会話かスムーズに流れだす。客席側から見ていても、視線がなめらかに誘導されて見やすくなった。

次のシーンでふたたび、栗山が「この台詞でここに立って」と松山と岡山に指示する。すると、二人の立ち位置が最初と真逆になっていた。気づけば、二人の関係性も真逆になっていた。

方言指導にしっかりと時間をかけたそうで、沖縄のイントネーションで話す。なかには本土の人間ではおそらく理解できない言葉も混ざるが、それがまた生々しい。そこに米兵の英語も入り乱れる。壁や床にはアメリカの看板やインテリアがたくさん並び、なんだか陽気で明るい雰囲気もある。けれども同時に、沖縄の冬の暖かさと、汗の臭いと、目には見えない生々しい憤りが渦巻いているようだ。

稽古では、演技、確認、演技、確認......と繰り返される。時には全員で円になり、シーンを振り返りながら、動きや台詞の方向性などを共有する。つねに静かで集中の糸は切れないけが、合間には笑い声もあり、緊張しながらもリラックスしているようだ。

来年は、沖縄返還50周年だ。沖縄やコザのこと、そしてこの日の出来事を知ってもらいたい。脚本の畑澤聖悟は、綿密な取材を重ね、丁寧に作品に反映していく。松山と岡山は実際にコザを訪れ、舞台となった場所を歩いてきたそうだ。

沖縄返還前のある日。アメリカと一触即発の空気のなか、血の繋がらないいびつな家族の行き場のない愛憎が、稽古場に充満していく。

取材・文 河野桃子

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1212()より東京・シアタークリエほかで上演される『ガラスの動物園』の稽古場を取材した。1930年代、大恐慌下のアメリカに生きる家族を描いた『ガラスの動物園』は、テネシー・ウィリアムズの出世作にして、アメリカ文学の最高峰とも称される戯曲。1945年のブロードウェイ初演以降世界中で繰り返し上演され、のちの演劇・文学作品にも大きな影響を与えたこの作品を、今回は上村聡史の演出、岡田将生、倉科カナ、竪山隼太、麻実れいの出演で上演する。

物語はトム・ウィングフィールド(岡田将生)の回想から始まる。トムはこの物語は追憶の劇だと宣言する。そう語る姿はくたびれた風情だ。しかしどこか甘い香りが匂い立つようで、それは郷愁の甘さに加え、岡田自身の持つ少し悲し気で優しい雰囲気がそうさせるのだろう。バンドネオンが奏でる物悲しいBGMとトムの独白が、閉じられた、息苦しい、しかし懐かしい家の中に観る者を誘っていく。

ウィングフィールド一家の住むアパートの中には、アンティークの調度品が設えられ、舞台中央の机の上にはガラス細工の動物が置かれている。父親は16年前に家を出ていったっきり。この家の空気を司っているのは母親のアマンダ(麻実れい)だ。南部のお嬢様育ちのアマンダはかつての栄華を未だに忘れられず、子どもたちを無意識のうちに支配しようとしている過干渉な母親。すべてにおいて大げさで、芝居がかっているが、麻実は"芝居がかっているのに、リアリティがある"という人物を演じるのに長けている。そしてこの一家を覆う一種病的な空気を生み出しているのがアマンダであるのが一瞬で伝わる求心力。なのにチャーミングさもチラリと覗くところはさすがだ。

空気を司るのがアマンダなら、一家の要は娘のローラ(倉科カナ)だ。脚に障害があることから極度に内向的、ガラス細工の動物を大切にしている娘。母アマンダが極端に可愛がり、かつて自分のもとに数多くの青年紳士の来訪があったように、ローラの元にもそんな紳士がやってくることを期待している。家族の......というより、アマンダの行動原理がすべて「ローラのために」である分、負担はトムの両肩にのしかかってくるわけだが、一方で一家の緩衝材になっているのもローラの優しさだ。倉科のローラからまず伝わってくるのは、そんな優しさ。倉科の可憐さと相まって本番の舞台ではさらに繊細なローラになるに違いない。

いびつな家族がなんとか破綻せずに保っているのは、やはりお互いへの愛ゆえなのだろう。岡田、麻実、倉科の3人は自身の感情を爆発させた瞬間、ぱっと罪悪感が広がるような、そんな繊細な感情を巧みに紡いでいく。演出によってはこの登場人物たちがどうしようもなく自分勝手に思える場合もあるのだが、上村演出版は、どのキャラクターも息苦しさと相手への愛情の間で葛藤しており、痛々しく悲しい。しかし綻びは少しずつ大きくなる。ずっと自分を抑えてきたトムが、この家には何一つ自分の自由になるものはないと嘆くシーンの岡田の悲痛さは胸に迫るものがある。

取材できたのは1幕のみだったが、このあと2幕になると、危ういバランスで保たれていた家族は、ひとりの青年――ジム・オコナーの来訪によって大きく揺れる。アマンダからローラのために知り合いの紳士を紹介してくれと懇願されたトムが連れてきたジムは、アマンダの期待する"ローラの青年紳士"となりえるのか。現実世界からの使者・ジムを演じるのは竪山隼太。1幕では幻想の紳士として印象的に佇んでいた竪山が、どんな"現実の青年"になるのだろう。そしてそれぞれの抱く期待や痛みがさらに増幅される2幕で、演出の上村がどんなところにフォーカスを当てるのかも楽しみである。ただ、1幕を観た感触では、上村演出は家族に対する期待や失望、義務、閉塞感、将来への不安や自由への憧れ、そして悔恨といった幾重にも重なる感情を丁寧に紡ぎ、そのすべてを家族愛という糸で繋ぎ合わせて見せてくれそう。それぞれが少しずつ破綻しているが、この一家は非常に優しい人たちなのだ、と思えた。戯曲本来のノスタルジックで繊細な美しさが際立つ『ガラスの動物園』になりそうな予感がする。

公演は1212()から30()までシアタークリエにて。その後、福岡、愛知、大阪でも上演される。(取材・文:平野祥恵、写真提供:東宝演劇部

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『反応工程』稽古場レポート

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新国立劇場が、全キャストをオーディションで選考し、上演するという企画で昨年、コロナ禍により上演が中止となった千葉哲也演出による『反応工程』が、全キャスト・スタッフが再結集して7月12日より上演される。昨年の中止決定前に行われた通し稽古の模様をつづったレポートを再掲する。

『反応工程』は、学徒動員された経験を持つ宮本研が、自らの経験をもとに執筆した作品。終戦間際の九州の軍需工場で働く動員された学生たちや古株の工員らの人間模様が描き出される。

昨年の4月9日に幕を開ける予定だった本作だが、新型コロナウイルスの感染拡大によりまず4月12日までの公演の中止が決定。さらにその後、緊急事態宣言の発出を受け、全日程の中止が発表された。この通し稽古が行われたのは、全日程の中止が発表される前の3月下旬。そのため、まだマスク無しでの稽古だった。先行きの不透明な状況の中でも、キャスト陣14人は約1500通もの応募者の中からオーディションを経て役を勝ちとっただけあって、意気消沈するどころか、高いモチベーションと集中力を持って稽古に臨んでおり、1ステージも無駄にすまいという強い思いが伝わってくる。

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もともとは染色工場だったが、現在はロケット砲の推進薬を作っている軍需工場という設定で、工場へとつながる休憩室、仮眠室のあるスペースで展開。奥の柱には「火気厳禁」「生産増強」などと書かれた貼り紙が見える。 戦時中であり、若き学生たちが兵器を作る工場への動員を余儀なくされるという非常事態の中にあって、それでもここで主に描かれるのは、彼らの日常である。若者たちは奇妙なほど明るいテンションで日本の勝利を信じ、仕事に励み、酒を飲み、召集を受けた者にも明るく「おめでとう」という祝福の言葉を送るが、そこにはどこか虚しさが伴う...。

"反応工程"という言葉は、ロケットの推進薬を作るプロセス、原料となる薬品が混ざり合い、化学変化を起こしていく過程のことを指しているが、若き学生たちと昔ながらのベテランの職工たち、経営陣、女学生、憲兵など、立場もこれまで歩んできた道のりも思想も異なる者たちが混ざり合い、影響し合っていくさまこそ、まさに"反応工程"と言える。

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もちろん、単なる日常のみが描き出されるわけではない。学生のひとり・影山は軍からの招集を拒んで逃げ出す。同じく学生の田宮は、勤労課の年上の職員・太宰から"禁書"とされているレーニンの著書を渡され、その影響を受けて戦争や正義、国家、そして自分自身に対しての迷いや揺らぎを感じ始める...。

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戦時中、しかも終戦間際の特殊な状況を描きつつも、現代を生きる我々に深く問いかけるようなセリフややりとりも劇中、多く見られる。印象的なのが、禁書を持っていた田宮を教師・清原ら大人たちが見咎め、なんとか穏便に事態を収めようとするシーン。清原は「今はこういう時代」であり「国という一つの全体が激しい力でどんどん変っている。......というより、一つの力でぐんぐん前に進んでいる」のであり、そうした状況にあっては、全体の意思や秩序の下で、個人が制約を受けるのはやむをえないと説き、「制約なり規律なりを、むしろ、積極的に受取ってゆく。......つまり、そういった制約の中でこそ自分を生かしてゆこうという、積極的な身構えが必要だと思うんだ」とまで言い放つ。

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教師のそんな言葉に激しく反発する田宮だが、彼もまた心の中に激しい葛藤を抱いている。彼に禁書であるレーニンの本を渡した太宰は冷静に「日本は敗ける」と語るが、田宮はその言葉を理屈の上では理解しつつも受け入れられない。「明日を見る」と諭すように語る太宰に対し「今日しかない」と叫ぶ田宮...。

物語が始まるのは1945年8月5日。そこから日々、工程が少しずつ進んでいく様子が描かれるが、芝居を見ている我々は、黒板に書かれた日付を見つつ「あと何日で終戦」と頭の中に浮かべる。だが当然ながら、劇中を生きる彼らは、そんなことは知る由もない。いや、その日が近いことは皆がどこかで感じているのかもしれないが、そんな日が来ることが信じられずに今日を生きている。

それは、いつの日か危機的な事態が収束するであろうことを願い、信じつつも、それがいつになるのか見えずに不安を抱え、大切な人々のことを案じる、いま現在の我々の社会とも重なる。

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最終第四幕では、少し時間を置いた戦後が描かれる。第三幕までの数日を生きのび、終戦をまたいだ若者、そして大人たちがどう変化し、戦中の時間をどのように受け止めているのか? 最後までじっくりと見届けてほしい。

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『反応工程』は新国立劇場にて7月12日より上演

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数多くのカンパニーで上演され、「日本で最も上演されている戯曲」とも言われる清水邦夫の『楽屋―流れ去るものはやがてなつかしき―』の上演歴に、新たな1ページが加わる。彩吹真央、大月さゆ、小野妃香里、木村花代。いずれも主にミュージカル界で活躍、実力派として知られる彼女らが紡ぐ『楽屋』はどんな舞台になるのだろう? 5月末、その稽古場を取材した。

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稽古場に入ると、まだ稽古開始時間になっていないようで、4人が思い思いに柔軟をしたり、台本を確認したりしている。4人の人柄か、落ち着いた、柔らかな空気が漂う稽古場だ。ディスタンスを保ちつつ交わす会話のトーンも和やか。そんな中で、演出・稲葉賀恵が立ち上がり、稽古がスタートした。

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物語の舞台となるのはチェーホフの『かもめ』を上演中の劇場の楽屋。部屋の主は、ヒロイン・ニーナを演じている女優C。ただし、この楽屋の"住人"は彼女だけではない。すでにこの世にはいない女優A、女優Bがなぜか居付いて、Cにちょっかいを出したりしている。この日の稽古はちょうど物語中盤あたり。Cの元プロンプターで、体調を崩し現場を離れていた女優Dが現れたことで、Cのイライラが頂点に達している場面だ。

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「(アクションを)考えてきました」と、稲葉。アクティブな場面にしたいようで「ティッシュを投げたい」「ここでもう一個」と動きをつけていく。女優Cを演じるのは彩吹。「これを投げる心理としては......」と稲葉に相談しつつ、動きを身体に入れていく。稽古の進行的におそらくこの場面を付けるのはこの日が初めてだと思われるが、それにしても彩吹のセリフ回しの巧みさよ。ABが見えていないCのセリフは、ほぼ"独り言"だ。それがまったく単調に聞こえず、見ていてぐいぐい惹きつけられる。

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一方で舞台をかき回していくのが女優Aと女優B。死んでもなお舞台に未練を残すふたりのやりとりの可笑しさがこの戯曲の見どころのひとつでもあるが、今回は女優Aに小野、女優Bに大月。たいていのカンパニーでは、ベテランふたりがABに配役されることが多いが、今回は最若手の大月が女優Bというのは意外なところ。しかし小野&大月コンビ、緩急のバランスがなんとも絶妙! モノに当たり散らすCが投げつけるあれこれの被害を受けるくだりの情けない表情がじわりと可笑しいのでぜひご注目を。

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そして女優Dに扮するのが木村。枕を抱えてすーっと近寄ってくるさまは、よくわからないけれどとっても"気になる"。取材している中ではセリフを発する場面はなかったが、この何とも言えない不気味さに木村の美しきソプラノボイスが合わさるといったいどうなるのか。楽しみでならない。

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稲葉は「こうと思わせて、こう見せたい。とするには、どうすればいいでしょうね?」「口紅を塗るところはキレイに見せたい。となると、場所はどこにしましょうか」といったように、ゴール地点は決め、その道筋は俳優に委ねるタイプのよう。キャストも「こういうのはアリですかね?」と積極的に意見を出し、それを見ている別のキャストが「面白い、面白い!」と反応する。どうやらこの女優たちのリアルな姿は、劇中の女優たちのドロドロした雰囲気とはほど遠そうだが、前向きで気持ちのよい稽古場で作られる彼女らの『楽屋』は、ぐんぐん面白いものに育っていきそうだ。

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公演は69()から13()まで、博品館劇場にて上演。チケットは現在発売中。

取材・文:平野祥恵
撮影:岩田えり

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日本で最も上演されている戯曲と言われている、故・清水邦夫の傑作戯曲『楽屋―流れ去るものはやがてなつかしき―』。舞台の楽屋で繰り広げられる女優4人の物語は、やはり女優たちが我が身を投影するところがあるのか、多くの演劇人に愛されてきた。この"女優4人芝居"を男優のみで上演したのが2020年1月のこと(西森英行演出。21年4月に再演)。その舞台に出演していた佐藤アツヒロが、今度は演出として手掛ける『楽屋』が5月31日(月)から東京・浅草九劇で上演される。伊勢大貴、瀬戸祐介、照井健仁、星元裕月といった若手俳優を起用し、同じくオールメールで挑む新生『楽屋』の稽古場を5月末の某日、取材した。

『かもめ』のヒロインを演じている女優Cの楽屋で繰り広げられる、ワンシチュエーションの物語。1977年初演の戯曲ということもあり、もともとは"昭和"の香りが漂う作品だが、今回の舞台セットは、革張りの椅子だったりシックな机だったり、ずいぶん、現代風だ。楽屋らしい調度品がある中で、エレキギターやら木馬といった、少し意外な小道具も。効果音も不穏な嵐の音が鳴ったりして、一風変わった『楽屋』が始まりそうな予感を漂わせている。――と、ロックなBGMの中、物語がスタート。伊勢大貴扮する女優Aと、照井健仁扮する女優Bが登場。テンション高めに化粧をしたり、カードゲームに興じたり。

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物語をどんどんかき回していくポジションであるAとB、口汚くお互いに悪態をついたり、ここにはいない女優Cの悪口を言ったりしているのだが、パワフルに動き回る伊勢と照井が可愛らしく、なんだかふたりの女優が"同志"のように見えてくる。特にやはり、西森演出版にも出演していた伊勢が、戯曲の緩急を掴んでいるようで、繰り出すセリフがリズミカルで良い。前回は最若手として女優Dを演じていたが、先輩格の女優Aをチャーミングに演じてくれそうだ。

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物語の芯を担う女優Cは瀬戸祐介。まだ稽古着ながら、黒のロングスカートにハイヒールも履き、すっと伸びた背筋に"女優感"を漂わせている。AとBに調子を狂わされ、常にイライラしている姿が、ロックテイストな佐藤演出とマッチし、空気をヒリつかせる。

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Cのプロンプターだった若手女優Dは、星元裕月。愛らしい外見と魔性めいた個性をいかんなく発揮し、Dの"不思議ちゃん"的キャラクターを造形。

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どこか宝塚歌劇めいた仕草も、妙な迫力があって印象に残った。佐藤、伊勢らが出演した西森演出版では、女優4人が密やかな宇宙を作り上げた印象だが、この佐藤演出版は、内なる衝動をストレートに外に向けているロックのような『楽屋』になりそう。全体を通したあと、佐藤も「いいと思います。このベースを守りつつ、もう少し洗練させていきましょう」と出演者たちに声をかけた。また新しい『楽屋』の魅力と出会えそうだ。

公演は5月31日(月)から6月13日(日)まで、浅草九劇にて。チケットは現在発売中。5月31日(月)18:30公演はPIA LIVE STREAMでのライブ配信も決定(アーカイブ5月31日(月)23:00まで)。

取材・文:平野祥恵
撮影・岩田えり

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イラストレーターの志島とひろが元号を擬人化した「元号男子」の舞台版が、2021年3月9日(火)より、東京・大手町三井ホールで上演となる。元号を冠したキャラクター、大正、昭和、平成、令和がひとつ屋根の下で暮らす様子を描き、和合真一(大正)、校條拳太朗(昭和)、平賀勇成(平成)、大薮丘(令和)がキャストを務める。志島のイラストと漫画がSNSを中心に広がり、ドラマCDとなった4人の日常を舞台作品として脚本化、さらに総合演出を務めるのは、「テレビ演劇 サクセス荘3」の監督&脚本、ミュージカル「青春鉄道」の脚本&演出で知られる川尻恵太(SUGARBOY)。そして、3月末より上演を控える「『笑ゥせぇるすまん』THE STAGE」の脚本を手掛けた白鳥雄介(Stokes/Park)が演出を担当している。今回「げきぴあ」では、2月下旬に行われた稽古の様子をレポートする。

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この日は、初めて衣装を着た状態での通し稽古ながら、新型コロナウィルス感染予防対策のためメイクは行わず、マスク着用の上でスタート。先輩元号として登場する幕末役の星璃は残念ながらこの日は不在だが、メイン・キャストの4人と、江戸役の前田剛史、明治役の大原海輝も加わり、細かな調整を加えながら、物語が進んでいく。華やかな容姿でおっとりとした話し方が特徴の大正、クールで硬派な見た目ながら少しせっかちな昭和、ゆとり世代でマイペース、ゲームが大好きな平成と、時代のイメージがキャラクターに反映されているが、異なる価値観を持ちながらも、それぞれを尊重し仲良く暮らしていることが、会話や行動から伺える。新たに加わることとなった元号男子=令和は、誕生したばかりということもあり、見るものすべてが新鮮な様子だ。

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ノゾエ征爾が演出を務め、「ピーター・パン」の物語の前日譚を描く音楽劇「ピーター&ザ・スターキャッチャー」が新国立劇場で12月10日より幕をあけた。11月中旬、主演の入野自由、ヒロインの豊原江理佳、そして宮崎吐夢、櫻井章喜ら実力派キャストが揃った稽古場に足を運んだ。

2012年にブロードウェイで上演され、トニー賞5部門を受賞するなど高い評価を得た本作。ピーター・パンはなぜ空飛ぶ永遠の少年になったのか? ネバーランドはどのようにして生まれたのか? 誰もが知る物語の誕生の秘話が描き出される。

のちにピーターとなる"少年"を演じるのは入野自由。登場時は、苗字はおろか名前すらも与えられていない孤児の少年で、孤児院の院長により異国へ向かう船に売られてしまう。"ピーター・パン"の萌芽を垣間見せつつも、いまだ何者でもない彼が徐々に成長し、リーダーシップとカリスマ性を手にしていく様を入野が生き生きと表現する。

そんな少年の運命を変える存在であり、本作において強烈な輝きを放っているのが、豊原江理佳が演じるヒロインのモリー。「なによ? 女の子だって夢を見るの!」というのは、彼女の冒頭のセリフ。女は男に従うのが当然だった時代に、好奇心旺盛な10代の少女は、持ち前の知性と行動力で少年と共に冒険を繰り広げ、新しい時代の女性像を体現。ピーター・パンの誕生に大きく関わっていくこととなる。

ユーモラスな"敵"の存在も「ピーター・パン」に欠かせない要素だが、本作にもしっかりと魅力的な敵たちが登場する。海賊・黒ひげを演じるのは文学座の実力派・櫻井章喜。そして、大人計画の宮崎吐夢が、オリジナルの「ピーター・パン」でもおなじみの海賊・スミ―を演じている。他にも、モリーの父親で、ビクトリア女王の命によりある使命を遂行しようとするアスター卿を新川將人が、モリーの乳母ミセス・バンブレイクを岡田正が演じるなど、経験豊かなベテランが脇を固めている。50代以上の面々からは、ダンスの稽古の際には「腰問題」「肩問題」といった自虐的な言葉が苦笑まじりにたびたび漏れていたが、いざ始まると一同、キレのあるダンスと美しいハーモニーを披露し、この魅惑のファンタジーの世界を確かな実力でしっかりと支えていた。

そしてもうひとつ、本作を語る上で欠かせないのが元SAKEROCKの田中馨&野村卓史の生演奏による音楽。舞台の後ろに控え、各楽曲の伴奏に加えて、この日の稽古中もノゾエのリクエストに応じて船の汽笛の音を再現するなど、多彩な音で楽しませてくれる。

実力派の俳優陣の演技と歌声とダンス、そして魅力的な音楽が重なり合い、あの「ピーター・パン」の世界がどのようにして作り上げられていくのか? 完成を楽しみに待ちたい。

「ピーター&ザ・スターキャッチャー」は新国立劇場 小劇場にて上演中。

取材・文/黒豆直樹

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7月2日(木)に銀座・博品館劇場で開幕するミュージカル『BLUE RAIN』。このコロナ禍の公演自粛期間を経てチラホラと再始動し始めている演劇界だが、その中でも先陣を切って開幕する新作ミュージカルだ。6月末、その稽古場を取材した。出演は吉野圭吾水夏希佐賀龍彦東山光明木内健人池田有希子今井清隆。演出は荻田浩一

6月末の某日に取材に行った稽古場所は、東京公演本番の会場である博品館劇場。と言っても、セットが建て込まれたいわゆる"舞台稽古"ではなく、仮のセットで、俳優たちも衣裳ではなく稽古着だ。まず目に飛び込んでくるのは、俳優たちのいでたち。マスクの上にフェイスガードという、二重のガードがとられている。どうやら出演場面以外に待機する客席の居場所も、お互い距離をとった上で、座る場所が固定されている様子。簡易楽屋的になっているロビーも、一席ごとにアクリル板の仕切りが用意されている。3月以前の現場とはまったく違うその稽古風景に、感染防止に最大限に気を遣い、"withコロナ"の時代に上演を実現させようとするカンパニーの切実たる思いがひしひしと伝わってくる。

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作品は、ドストエフスキーの名作『カラマーゾフの兄弟』をベースに、舞台を1990年後半のアメリカ西部に移し変えたもの。今井清隆扮する強欲な富豪の殺害を軸に、一家の愛憎が描かれていくサスペンスだ。舞台上にある仮のセットは、可動式のビニールシートのパーテーション。この時期の上演となることで、それまで予定していたセットプランを変更し、このような形の美術となったそう。仮のものであるため全貌はまだわからないのだが......それでも、この「透明な仕切り」が、非常に効果的に作品に組み込まれているのがわかる。犯人と目される吉野扮する長男が拘留されている場面では、そのままその仕切りが面会室のアクリル板になるし、時には対立する人々の心の距離を表すメタファーになったり、もしくは自分のこころを防御する盾になったりもする。演出の荻田の手腕が光る。

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キャストも、憎しみと猜疑心と苦しみと愛が混然一体となったこの激情の物語に、熱い情熱を注ぎ込む。朗々とした歌声を響かせる今井は、その揺るぎない存在感で憎々しい父親ジョンを表現。容疑者筆頭の長男テオに扮する吉野は父への憎しみを切ない叫びでぶつけ、その恋人ヘイドンを演じる水は寂し気な立ち姿と哀愁のある歌声で、新境地を見せてくれそうだ。弁護士である次男ルークをダブルキャストで演じる佐賀と東山、使用人サイラスに扮する木内、家政婦エマ役の池田らもその実力を存分に見せ、マスク越しでもキャラクターがクリアに際立つ。6人という少人数編成でのミュージカルだが、それぞれの個性が光り、見ごたえのある作品になりそうだ。その上で演出の荻田からは「もっとダイナミックに」という注文がついていたので、さらにパッショネイトなものになっていくだろう。

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メロディアスな音楽も印象的で、やはり劇場で聴く生の音楽は良いものだと再認識。実力派が揃った6人(7人)が、ソロナンバー以外にもコーラスでも大奮闘。歌唱指導の治田敦からは「コーラスでも、それぞれソロのように遠慮なく歌って」とリクエストが。火花を散らしあう表現は、近寄って掴みあうだけではない。観客の想像力を得て、飛翔するドラマが生まれそうだ。

公演は7月2日から7月12日まで東京・博品館劇場、7月22日 大阪・梅田芸術劇場シアター・ドラマシティにて。チケットは発売中。

取材・文:平野祥恵

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